防災・減災プロジェクト

白土直樹/日本赤十字社 救護・福祉部次長

1968年生まれ、東京都出身。1992年日本赤十字社入社以後、国内外の救護、復興、防災に一貫して携わる。国内では阪神・淡路大震災をはじめ、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震等多数の災害で救護活動や復興支援に従事。海外ではイラン・バム地震で国際赤十字のチームリーダーを務めたほか、スマトラ島沖地震・津波災害の復興支援、ベトナム・マングローブ植林を通じた防災事業等に携わる。環境防災修士。

堀江裕介/dely株式会社 代表取締役

1992年生まれ、群馬県出身。2014年4月、慶應義塾大学在学中にdely株式会社を設立。フードデリバリーサービス、キュレーションメディアを立ち上げるが、撤退。2度の事業転換を経て、2016年2月よりレシピ動画サービス『kurashiru(クラシル)』を運営。2017年8月にはレシピ動画本数が世界一に、2017年12月にはアプリが1000万ダウンロードを超え、現在も成長を続けている。

事前に災害に備えることで
被害を最小限に食い止める

東日本大震災が人生の転換点に

白土:堀江さんが今の会社を起業されたのは、東日本大震災がきっかけとお聞きしたのですが、どういった経緯だったのでしょうか?

堀江:当時、僕は大学受験の真っ只中だったのですが、建物や自動車が津波に流されていく様子をテレビで目の当たりにし、大きな衝撃を受けたのを覚えています。元々は体育教師になりたかったのですが、このままで良いのかと考えるようになりました。というのも、震災の後に自分が世の中に対して何もできない、と痛感してしまったんです。被災地へボランティアに行ったのですが、物を運ぶことし かできなくて。もちろん、それも大事なことなのですが、自分自身もっと世の中に影響を与えられるようになりたいなと考えました。

白土:実際に被災地に行かれてるんですね。

堀江:はい。当時、起業家をはじめさまざまな著名人が支援活動を行なっていましたが、私もそれに触発されたんです。その中でボランティア活動以上に貢献できることって何なんだろうと突き詰めた結果が起業でした。著名人は一人で多くの方の心を動かすことができる影響力を持っています。私もそのように、より社会全般に貢献できるようになりたいと思うようになったんです。

白土:東日本大震災は堀江さんにとって大きな人生の転換点となったんですね。日本赤十字社にとっても東日本大震災は大きな転換点となりました。日本赤十字社は、894班の医療チームを半年間にわたって派遣し続けるなど、災害対応としては史上最大級のオペレーションを展開しました。しかし、そのオペレーションは苦難の連続。その中でも最大の苦難は被災者を救おうにも、そこに救える命はすでになかったということでした。東日本大震災の死者の実に9割は、発災直後に津波に飲まれて亡くなっていたのです。

堀江:9割というのは衝撃的ですね。他の災害と比較しても高い数字なのですか?

白土:はい。最初の48時間以内に派遣された医療チームが1班あたり1日平均何名の患者を取り扱ったかというデータがあります。2004年にあった新潟県中越地震では108名。1995年の阪神・淡路大震災で63名。これに対して東日本大震災では13名だったんです。これまで多くの被災現場に災害発生直後からいち早く医療チームを派遣して多くの命を救う活動をしてきた日本赤十字社にとってこの事実は非常に大きな衝撃でした。赤十字の使命である『いのちと健康、尊厳』を守るために何が必要なのか、深く考えさせられるとともに、活動の方向性を変更する転換点となりました。

堀江:それも驚きの事実ですね。同様の災害が発生してしまった場合の対処方法などはあるのでしょうか?

白土:災害発生後に外部からの支援でいのちが救えないならば、災害発生前から地域コミュニティの人々にいのちを守る知識と意識、技術を備えていただかないといけない、そのために日本赤十字社は、応急対応と同様に、事前の防災・減災活動にも力を入れて取り組むこととしました。その重要な柱の一つとして「赤十字防災セミナー」などの防災教育事業があります。より多くの方々に受講していただきたいと思っています。

堀江:実際に被災地で救護業務に従事していた方の話をお聞きするとやはりリアルなものが見えてきます。今まで、災害発生後に何をすれば良いかをずっと考えていましたが、それだけではなかなか難しい部分がありそうですね。災害発生前から何をしなくてはいけないのかというのを真剣に考える必要があることを実感します。

食を通じての「備え」が安心感を生む

白土:日本赤十字社では、東日本大震災から5年が経った2016年より「私たちは、忘れない。」というプロジェクトを始動し、復興支援と風化防止に努めてきました。現在は、「防災・減災プロジェクト」として、軸足を「防災・減災普及」に移しながらも継続してこのプロジェクトを続けています。このプロジェクトができてからも熊本地震や西日本豪雨、北海道胆振東部地震など多くの災害が発生しました。その中で、改めて、一人ひとりの災害への備えが被害を抑えることにつながると実感しており、今年のプロジェクトでは、「備える」というテーマのもと、様々な防災普及を行っています。

堀江:私もそのプロジェクトの一端を担うことができて、大変嬉しく思っています。もともと『kurashiru』では、災害があるごとに火が使えない時にはどういった食事ができるのかなどを発信していました。ただ、それではどうしても災害発生後の発信となってしまい、被災者の方々が慌ただしい中でどこまで届いているかもわかりません。日本では大なり小なり毎年災害が発生しているので、事前に備えておくことが本当に重要だと思います。緊急時の食事の仕方をちょっとでも覚えているだけで落ち着きにつながるのではないでしょうか。

白土:食事を通じて「備え」の意識を持つことは現実的なソリューションだと思います。「防災に取り組みましょう」と言ってもなかなか腰が上がらない。災害が起きると一時的に関心は高まるのですが、日頃はやはり忘れられてしまう。それを、食事という毎日3回あるものを通じて「備え」という意識を少しずつ持つことはわかりやすいですね。

堀江:おっしゃる通り大きな災害発生直後は防災へ意識が向きますが、日常を過ごしていく中でどうしても忘れてしまう。明日、起きるかもしれないという危機感をもってもらえることが重要なのかと思いま す。

白土:そもそも人間の体は食で成り立っていますし、食がなければ1週間と生きることができません。近くのコンビニやネットで何でも買え、便利さに慣れている現代の私たちにとってライフラインが寸断された状況でどう食事を確保するかは重要なポイントとなります。実際に災害現場に赴いても、例えば一昔前までは乾パンと水が配給されれば良しとし、被災者はそれで我慢するのが当たり前とされていましたが、阪神・淡路大震災以降は、食事の質が向上しバリエーションも増えてきました。実は、食事の重要性は被災者だけでなく支援者にとっても同様です。支援する側もきちんとした食事を継続的にとれなければ、過酷な現場で良い仕事はできません。

日々の小さな心がけが大きな力となる

堀江:インターネットメディアを運営する僕たちとしては、継続的に発信することが何よりも重要だと思っています。繰り返しになりますが人間って本当に忘れてしまうものなので、しつこいくらい伝えていきたいですね。実際に東日本大震災への募金額も徐々に落ちていき、支援活動に行かれる方も減っていると聞きます。それをメディアとして忘れないように伝えていくことが何よりも肝心です。それが結果として「備え」への意識の高まりへとつながることが望ましいですね。

白土:なるほど。現代はネットの影響力が大きいのでとても重要ですね。日本赤十字社としても、「防災・減災」を進めるうえでどういったことができるのか、さらに考えを深めていきたいと思います。先ほど申し上げた「赤十字防災セミナー」は、現在、年間約3万人の方々に受講いただいていますが、受講者は60代以上のシニア層が中心となっています。今後は、より多くの、そしてさまざまな世代の方々に興味を持っていただくための取り組みが必要です。

堀江:「防災」と聞くとどうしても若い世代は身構えてしまうでしょうし、面倒くさいと思いがちです。ただ、自分にも降りかかってくるものだと当事者意識を持ってもらえるように私も力を尽くしていきたいです。そもそも、なぜ私が災害に対してここまで考えるかというと、単純に「恐い」んです。自分自身に災害が降りかかってくるのも恐いですし、日本のどこかで町ごとなくなってしまうとか、多くの人が悲しむということも恐い。そういうリアルな感情を忘れてはならないと思うんです。正直に言って何か一つの施策を行なっただけでは変わらない。日々ちょっとずつでも良いので継続的に発信することに意味があると考えています。大きな打開策は一つもないはずなので、一人ずつでも小さなアクションを起こしてもらうことが大事だと思います。

白土:おっしゃるとおりです。できるだけ多くの若い方々に、「防災」への興味・関心を持っていただき、例えば朝、ご近所の人に会ったら挨拶するなど、小さくても良いから具体的なアクションを起こしていただけると本当に心強いです。災害ってどうしても時間の経過とともに風化してしまいます。ただ、そういったなかにあっても、過去の経験や学びを活かして、新たな可能性を生み出し、次の時代を担う世代へバトンを渡していくこと、それが私たちの使命だと思っています。

日本赤十字社は、「もしも」に備えた救援物資の備蓄に加え、
国内災害活動など、様々な活動を行なっています。

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